2019.07.08
製造業界では何年も前から工場の作業工程をロボットが行うようになり、効率化が進められてきました。そして、3年ほど前から製造過程以外の部分での効率化にも焦点が充てられ、経理や人事の業務がRPA化されてきました。さらに次の段階として、製造現場における事務作業をRPA化しようという動きが盛んになっています。
RPAトレーニングのニーズの増加、その背景は
RPAの浸透が進んでいく中で、RPAの開発をシステムベンダーに依頼せずに自社の現場社員が開発・運用していこうという動きが出ています。それに伴い、比較的ITリテラシーのない現場社員の方々に対してRPAトレーニングをするニーズが増加してきました。
RPAの開発を自社内で行うメリットは以下の通りです。
システムベンダーに開発を依頼した場合、RPA化したい業務をベンダーに伝える、設計してもらう、希望通りならば開発、テストを行い、リリースという一連の流れにおいてベンダーとのやり取りが何度も続きます。解釈のずれなどがあった際にはもう一度やり直さなければならないため、多くの時間を要します。気軽に業務を自動化できるのがRPAの特徴ですが、ベンダーに依頼しているとその特徴がうまく活かし切れません。そのため、現場の実務を理解している社員がそのままRPA化することで最も効率良く業務を自動化することができます。
当たり前のことですが、システムベンダーに開発を依頼した場合、ベンダーに代金を支払わなければいけません。自社内の人材を使ってRPA化することができたら、その分の経費を削減することができます。
システム開発を完全に外部委託した場合、現場社員はRPAについてほとんど無知のまま、業務が自動化されていくという状態になります。それに対して、現場社員がRPA技術を身に着けた場合、どの様なプロセスを経て業務がRPA化されたかを理解している状態となります。そのため、他にRPA化できそうな業務にはどの様な業務があるかの検討をつけて、実際にRPAロボットを開発することができます。また、そもそもビジネスプロセスに問題が合った場合にはそれに気づくことができる可能性も上がります。
現場社員に対してRPAトレーニングを進め、自社内で開発することのメリットが分かったところで、研修事例の紹介にうつっていきます。
研修の基本概要
今回ご紹介するのは、大手自動車メーカーの研修プロジェクトで、研修を受けるのは製造工場の現場社員です。主に対象となる業務はサプライヤーへの受発注業務などです。
研修期間は6週間程度で、遠隔地であったので週1回講師が現地に赴き、1日約2時間×2回の計4時間のセッションを行いました。それ以外の時間帯で不明点などがあれば、オンラインでのサポートを実施しました。
どうしても講義に参加できなかった人に対してはフォローアップの資料を用意し、次週以降の講義の内容についていけるように細かい対応を行いました。
研修内容
まずはRPAツールを扱っていくにあたり、RPAの基本的な概念やRPAで実現できること、実現できないこと、RPAのメリットなどを説明して基礎知識を身に着けてもらいました。次に、画面や用語の説明をしてそれ以降の講義がスムーズに行えるようにしました。
次に、自社ホームページから連結損益計算書などの情報をダウンロードして、それをエクセル処理(ダウンロードデータの加工と連結売上高・利益ブックを作成)、結果のメール送信までを実践形式で教えていきました。ダウンロード、エクセル処理、メール送信それぞれの段階において各パートでエラー処理の仕方も併せてレクチャーしていきました。
例えば、メール送信設定を読み込むという動作のシナリオを作る際は以下のような手順を踏む必要があり、講義では講師が実際に作成しているのを見ながら、社員も同じようにRPAツールを操作していきます。
今回の研修で工夫した点
基本的にもともとプログラミングなどの経験がない人が対象であるため、分かりやすくイメージしやすいようなアプローチで研修を進めていきました。
研修で作成するシナリオは身近な現場実務を題材として、RPAが導入された際に自分の業務が効率化されるイメージを持ってもらえるようにしました。先ほどの連結損益計算書のダウンロードなども普段自分たちが使っているHPから情報を持ってきて、実践的な業務をRPA化する作業を行いました。
実際に現場社員が開発しているRPAシナリオをチェックし、エラー対応やセキュリティ管理の仕方などのアドバイスをしました。特に、業務を自動化するにあたっての業務選定のアドバイスに力を入れました。ご存じの方も多いかと思いますが、全ての業務がRPAに適している訳ではありません。自動化するにあたってRPAツールを使わなくても、Microsoft Office Excelのマクロ機能を使った方がお手軽に簡単に自動化できる場合もあります。
Excelのマクロ機能はExcelの標準装備として搭載されている機能です。Excel上での動作を記録・保存して同じ動作を行いたい時はワンクリックするだけでExcelが同じ動作を自動的に行ってくれるという機能です。Excel上での繰り返し作業を自動化するならばマクロ機能を使うことが最も有効的であると言えます。
例えば、このプロジェクトの中では、エクセル情報を加工して別のエクセルファイルに入力する作業はマクロ機能を使った方が効果的であると考えられたため、アドバイスとしてマクロ機能による自動化を勧めました。(例:納品書(エクセル)にある指定の範囲をコピーして別エクセルに貼り付ける作業)
現場社員のスキルレベルは人それぞれであるため、受講者のレベルに合わせて内容をカスタマイズしました。社員がコードを自分で入力してシナリオを作ることは困難であると判断したため、できるだけアクティビティ(決まった動作)を使って作成しました。アクティビティのアイコンを作業フローの図にドラッグアンドドロップするだけでシナリオが作成できるような内容にしました。
また、レッスンにおける進行ペースはITリテラシーがない人に合わせるということを現場担当者と取り決めし、全員が理解したら次に進むという形をとっていました。ITリテラシーがない方が多かったため、基本的な言葉の確認にも時間をかけ、きちんと知識の土台を作ってから難易度の高い操作をすることを重視していました。
研修の成果
6週間の研修を経て、ほぼ初心者の状態でスタートした現場社員はRPAの基本的な知識を身に着け、使い方をマスターしました。また、そのメンバーの中でも簡単な開発が進められるようになりました。
研修自体は6週間で終了しましたが、この研修の効果を最大限にするためには現場社員がRPAツールに継続的に携わり、自分たちのツールとして運用し続けることです。将来的に、長期的な視点で見たら、今回講義を受講した社員が他の社員に対して研修を行えるレベルまでスキルアップしたら社員同士での研修も可能になるでしょう。
まとめ
以上、大手自動車メーカーにおける製造現場の社員を対象にしたRPA研修についてご紹介してきました。短期間であっても基本的なRPAの知識やツールの操作方法については習得することができることが分かります。
これまでRPAは本社管理部、経理や人事、そして営業事務などへの適応が主流でしたが、製造現場にもRPAの導入が普及しつつあります。今後もこのような遠隔地型の研修プログラムの需要は拡大していくでしょう。