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医療業界におけるBPR機会とRPA活用(製薬業界)<1>

2018.06.05

今回のコラムでは、医療業界の中でも特に製薬会社における業務改善(BPR)およびそこから浮かび上がってくるRPAの活用機会について述べたいと思います。もともと、製薬業界は外部コンサルタントからすると、BPRの潜在機会が比較的大きいと見なされている業界です。これは、この業界が特に日本において以下の特徴を持っていることがその一因ではないかと考えられます。

 

  • 複数の独立性の高い事業部(対象疾病)で成り立っている
  • 社内に複数のバラバラな独自システムが存在
  • 取引先となる病院がロングテールで独自の業務フローを保持、かつ相対的に病院の力が強い
  • 各種の法規制が厳しくグローバル企業であってもローカライズされた業務が必須
  • 生産性/効率性以外の論理が入りやすい

 

複数の独立性の高い事業部(対象疾病)で成り立っている

製薬会社ごとに得意となる領域は異なりますが、マーケットの規模が患者数に依存する業界のため、畢竟、1つの製剤でリーチできる売上の限界は早期に見通しが立ちます。がん・心疾患・脳卒中といった三大疾病の領域においても競争環境が激しく、価格も固定ですので、自社の技術評価を冷徹に行えば期待できるシェアから売上の上限は自然と決まります。また研究開発するにしても治験計画を綿密に立てねばならず、ジェネリックをするにしても特許切れの45年前から準備を開始していないと間に合いません。つまり、製剤業界というものは「計画が命」の業界であり、天変地異や予測不可能な市況の変動による影響に翻弄されることが比較的少ない業界と言えます。

そのような業界の場合、売上を伸ばしていくためにはどのような思考を持つでしょうか。もちろん1つの疾病領域内でシェアを伸ばしていく考えもあります。例えば糖尿病の治療には注射と経口(タブレット)があります。注射剤においても内訳で見ると今まで主流だったインシュリンもありますし、近年伸びているGLP-1受動体作動薬という分野もあります。研究開発に膨大な金額と時間をかける製薬業界にとっては、同じ糖尿病の治療においてであっても製剤の種類を変えることでシェアアップを狙うことは確かに一番費用対効果の高い戦略です。しかし、1つの対象疾病に会社の運命を託すのは、この業界が各種規制の影響を受けやすいことから、非常にリスクがあることです。ケースは少ないですが仮に何かの疾病の治療薬で上市後に問題が見つかった場合、その疾病領域での製剤の取り扱いは全面的に見直しとなります。そのようなリスクケースを想像すると、必然、製薬会社は一つの籠に卵を盛るような真似はせずに、リスク分散をできればしたいといいうのが心情です。つまり、売り上げを伸ばすために、対象疾病の領域を増やし製剤ラインナップ拡大を目指す。ただし、製薬業界は1製剤の研究開発に多大な投資と時間が必要な業界であり、それが対象疾病の領域を横に拡大する上でのネックともなっています。この二律背反性がこの業界の特徴とも言えます。対象疾病のラインナップ拡大については、自社努力で図るケースもありますが、M&Aを通じて広げていくケースが多いのもこの業界の特徴です。

対象となる疾病が異なれば、同じ病院内であっても担当医師が変わりますし、KOLKey Opinion Leader)ももちろん変わります。取引先となる病院側が変わるだけでなく、製薬会社内のR&D人材も変わり、製剤の種類によってロジ回りの協業相手も変わるケースが出てきます。つまり、製剤ごとの専門性が高すぎるがゆえに、事業部間のシナジー、標準化機会が簡単には生まれず、放っておくと、各事業部が各々の論理に従った業務設計をしてしまいがちになる傾向があります。ベンダー/サプライヤーの選定も事業部独自に行っており、コーポ―レートの視点で集約化することに対して神聖不可侵とされがちです。経営層からしても、各事業部の専門性の壁を越えて効率化を推し進めるのは他の業界に比べて難易度の高い取り組みとなります。これは外部コンサルタントからすると、翻って、潜在的なBPRの機会は大きいと言えます。もちろん事業部間の専門性は十分に配慮しなければいけませんが、過去のプロジェクトの経験からすると、ドキュメンテーションの作業や、社内システム上での作業、そしてサプライヤー管理業務については標準化/効率化の余地が残されているまま放置されていることが多い印象です

 

社内に複数のバラバラな独自システムが存在

この社内システムが乱雑でかつシステム間の連携があまり取られていない傾向については、原因として先述した事業部ごとの独立性が高いことと、あとはM&Aが比較的多い業界であることが挙げられます。これは今までの多くの製薬業界のクライアントを相手にした経験からですが、製薬業界にもSAPを始め業界標準化されたシステムは存在しますが、それとは別に個社ごとに独自に開発したシステムが数多く存在する印象です。例えば、臨床試験フェーズのシステムについても、製剤開発用のシステムもあれば、医療機関側のモニタリングやサンプルデリバリーのシステム、あとはEDC(電子症例報告書)のシステムもあります。あとはCT.govのような行政機関登録用のシステムあるケースがあります。あとは各種ベンダーや協力会社のサプライヤーマネジメント用のシステムも存在します。

これらのシステムが統合されたシステム思想のもとに導入されているのであれば、システム間連携への配慮もなされていると思いますが、ここで問題になるのがM&Aです。先述したように、製剤ポートフォリオの拡大を志向するが故に製薬会社間のM&Aは積極的に行われています。必然、2社それぞれの独自システムが併存する状態となります。もちろん経営層としては最終的に1つの統合システムにまとめてしまいたいところですが、システムの統合は十全な準備が必要であり、かつ両社の事業部の専門性に配慮せねばならず、結果としてかなりの長い期間、各社の既存システムが残ることになります。また一連の業務に関係するシステムが複数存在するため、仮にシステムの統合をするにしても一気に全てを行うことはできず、一つ一つ片付けていくことが求められます。即ち、あるシステムは統合版になったが、別のシステムは過去の各社の既存システムをそのまま使用しているという状態になりがちだという事です

こうなると、そのシステム間の非連携のシワ寄せは、人間である社員の双肩にかかってくることになります。あるシステムから別のシステムにデータを連携させるために、人間側でデータフォーマットの加工・修正をしたり、一部の機能についてはシステムで対応していないので、人間が専用のエクセル管理帳票を作って対応したり、といったケースが頻発します。このあたりの「システムtoシステム」や「システムtoエクセル」と言った領域は正にRPAの得意分野となりますので、RPAロボットの導入により社員の業務負担を大幅に軽減できることが期待されます

 

 

取引先となる病院がロングテールで独自の業務フローを保持、かつ相対的に病院の力が強い

これは特に日本における医療業界についてですが、医療機関側が市場の論理と逆行してフラグメンテッドな状態で成立し、かつ製薬会社との力関係においても医療機関側のパワーが相対的に強い特徴があります。まず、中小病院がフラグメンテッドに存続している背景ですが、それは地域への医療サービスの提供という営利活動とは別の論理が強く働くことが理由です。もちろん、この高齢化社会による医療福祉コストの増大を受け、行政で診療報酬改定や地域医療構想を掲げることで、各地域の医療体制を合併・再編を促したいという意向は垣間見れます。しかし、これは一部の意欲的な地域では進んでおりますが、その進捗は地域によって未だかなり温度差がある状態です。またこの医療機関においては、大学病院の存在も欠かせません。特に地方では、このDPC病院のⅠ群に相当する大学病院が担う役割は大きく、それらの病院は、もともと地域に根差しており、独自の業務を志向、他病院との統合の可能性は限りなく低いです。その他にも地方には県や市レベルの公立病院が多く存在し、これは医療サービス提供における地域格差を是正するためには、必要不可欠であり、今後も継続することは必定です。つまり、他のB2Cの業態、例えばドラッグストアやコンビニといった効率性重視の世界と異なり、大手によりシェアの収斂、寡占化は生まれにくく、あくまで地域に根差した中小規模の病院の存続は今後も粘り強く続くと予想されます

また、製薬会社と病院側の力関係についてですが、これは医師が高度な専門職であり、製剤の採用を決める事実上の意思決定者である以上、どの国においても医師の力は強くなるものです。ただし、この医師側の力が強い傾向が特に顕著なのが日本ではないかという印象です。これは日本の医療業界における電子化の取り組みが遅れ気味になっていることとも関係しています。例えば、治験フェーズにおける製薬会社の業務の中に、CTR(治験依頼書)を治験責任医師(PI)向けに作成し、署名をもらう作業がGCPで義務付けられていますが、これら一連の作業において、製薬会社側は都度病院を訪問し、医師との面談を行っています。これらの作業は実質、書面郵送+メール/テレカンでの補足説明で済む内容なのですが、「直に訪問しないと医師に失礼」といった諸々の理由により、比較的中小の病院であっても製薬会社の社員が訪問しているのが実情ではないでしょうか。このような業界慣習が医療業界では未だ根強く、他業界では効率化の観点から当然のようにしていることも依然として躊躇してるケースがよく散見されます。また、病院からの見積書においても、製薬会社側にとっては自社フォーマットに統一して出して頂きたいところですが、力関係の弱さから病院側の個別フォーマットに従わざるを得ず、その結果、事務員による膨大な集計業務が発生しています。このあたりの事情は業界慣習上、変えることが難しいのは重々承知しておりますが、他業界では効率化されて久しい膨大なBPR機会が野放しにされているのも事実ですので、何かしらの取り組みを検討する価値はあると思います。特に、複数のフォーマットの異なる情報の集計作業は、RPAの得意分野でもあります。ただ、それも数百のフォーマットとなるとRPA開発の手間がかかり費用対効果が合わなくなる恐れがあるので、自社内部での取り組みと並行して、SMOCROといった医療機関と製薬会社の間に入っている仲介事業者に協力を仰ぎ、製薬会社側の非効率な業務を減らすといった工夫もありうるかと思います。

 

 

各種の法規制が厳しくグローバル企業であってもローカライズされた業務が必須

どの業界であっても、PESTで言うところのP(政治)の動向については注視が必要ですが、特にそのドライバーの影響が強いのが医療業界です。近年は、欧米や日本といった先進国における新薬の世界同時開発の取り組みが標準的になりつつあり、各国法規制の標準化整備の流れはあります。しかし、依然として、日本はPMDA、米国はFDAというように、国ごとの独自の規制管轄があります。それは即ち、どのようなグローバル製薬メーカーであっても、少なからずのローカル業務が必ず発生するこということです。このような場合、経理や人事労務と同様、治験や営業業務の一部を各国のアウトソーシング会社に外注することもできると思いますが、製薬会社自社内でもその各国の法規制に対応する部門を持つことは必須となります。

グローバル企業の場合、効率化の観点から、業務フローの標準化は必ず取り上げられるテーマとなりますが、その障壁となるのが、この「各国の法規制対応業務」になります。ここで難しいのは、コーポレートの標準化/効率化推進側の責任者とって、どこまでが本当に法規制上必要なのか否かが容易に判別できないケースです。現場担当者側が言う「日本では●●の工程は必須」という意見も、本当にその全てが必要なのか、それとも解釈次第では変更の余地があるのか、容易には分かりません。筆者の経験では、薬品のパッケージング(包装)や治験薬のランダマイゼーション(割付)と言った業務で、そのような慣習上の独自業務がローカルに残ったままになっていたケースがあります。つまり、もともと各国の法規制の関係上、ローカル業務が残りやすい業界であるために、実はただ単に「慣習上」残っていた独自業務も多分に潜んでいる可能性があるということです

 

 

生産性/効率性以外の論理が入りやすい

最後に、そもそもの業界の志向性です。製薬会社自体は、民間企業であるため、営利活動を目的としておりますが、取引先となる医療機関はそうではありません。社会福祉を担う重要な使命をもっており、そのことが少なからず、民間企業である製薬メーカーにも影響を及ぼします。この無意識下にあるプライド・矜持は文化風土となり、業界特有の考え方を醸成することになります。

例えば、他の業界であれば、顧客との取引規模や重要度によって露骨に対応を変えます。キーアカウントとなる重要顧客については専門チームを設け、個別カスタマイズしたフォローも行いますが、重要でない顧客群に対しては十把一絡げにして、有無を言わさない標準フローで対応します。これは生産性向上、効率化の観点から自ずと導き出される商売鉄則です。もちろん、製薬業界においても同様の考えは出てきます。ただ、他の業界と比べてそこまで露骨に冷徹に徹底しきることが果たしてできるでしょうか。極端なことを言うと、「取引を失ってまで、自社内の業務効率化を優先する」という判断をするか、ということです。これは、「取引先が医療機関のみ」という市場が狭い業界ならではとも言えますし、「そもそも地域医療サービスの一端を担うべき製薬会社がそのようなマインドでいいのか」という自省の念から発する現象とも言えます。

また医療サービス、特に製薬は人命を扱う非常に重要で注意を要する仕事です。PMDAを始めとする規制側だけでなく、マスコミも何か非倫理的な事が起これば非常に敏感に動き、世間の耳目を集めます。これは、製薬会社側の業務で言うと、開発の段階で必要以上のステークホルダーへの承認作業に昇華します。社外の関係者への説明責任は規制に定められていますし必須だと思われますが、社内においても諸々の部署の人間が開発段階から入り、巡回して承認を得ていくことになります。これは、一概に悪いとはなりませんが、この傾向が増長されると「一見、開明的で民主的な承認工程だが、実は責任を曖昧にし『お見合い』による事故を増やす」結果になりかねません。あまりにも多数の社内承認者が必要なワークフローであったり、二重・三重のチェックを要している業務については、今一度その工程が本質的に必要なのか吟味し、場合によっては承認フローの簡素化を検討することをお勧めします

 

 

以上が、医療業界、特に製薬業界においてBPRおよびRPAによる業務改善機会が比較的多く眠っていることの論考となります。次コラムでは具体的にどのようなBPR施策およびRPAのソリューションが適用できるのか、実例を踏まえて述べていきたいと思いますので乞うご期待ください。

 

 

医療業界におけるBPR機会とRPA活用(製薬業界)<2>

 

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