2019.02.06
近年、労働人口の減少に伴い、急速に人手不足が進行しているのが接客業です。
実際、東京都における有効求人倍率(2017年11月時点)を職業別に見ると、
「サービス(接客・給仕)」は8.98倍と群を抜いて高く、全職業の1.8倍を大幅に上回っている現状があります。
また、最低賃金の上昇に伴いオペレーションコストが急増。
そのため、
少ない人数でシフトを回す⇒一人あたりの業務負担増
⇒労働環境の悪化⇒雇用の安定化につながらない⇒採用活動が思うように進まない
といった負の連鎖を引き起こしています。
こうした背景から、政府の推し進める「働き方改革」も、接客業の最前線に立つ現場スタッフにとっては、
他人事のように感じてしまうことも多いのではないでしょうか。
今回は、接客業の業務効率化や労働環境の改善に寄与するべく開発された
「接客業向けAI技術」を利活用した事例を基に、今後の接客業動向を探っていきたいと思います。
こと接客業において、人が人に対して行うサービスは多岐に渡り、
AI技術で賄うにはまだ十分技術革新が進んでいるとは言い難いです。
……などなど、現状超えるべき課題は多々あります。
もちろん上記すべてをAIで代替してしまうのは、人同士のコミュニケーションを奪ってしまうことにほかならず、
接客業の本来の良さが失われてしまいます。
AIの求められるのは、「人が行わなくても特段不都合がなく業務負荷が重い業務」を代替し、
その分人が新たなサービスを創出し、より顧客一人ひとりに寄り添ったサービスに
シフトできるようにするといった柔軟性の高い機能なのではないでしょうか。
ここからは実際に接客業の最前線に取り入れられているAI技術について、個別の事例を交えてご紹介します。
今回は、特に小売業にスポットを当てていきたいと思います。
コンビニ大手・ローソンの全店舗で2017年から導入されている「セミオート発注システム」は、
過去の販売実績やその日の天候などを考慮。
そこから導き出される最適な商品数をAIが算出し、ボタン一つで発注できるシステムです。
こういった店舗での発注は、経験に依るところが大きく、それゆえアルバイトに権限委譲することができず、
社員が休日出勤をしたり、残業をしたりして販売動向分析、インベントリー、
販売戦略まで行い対応することが多いようです。
そこでローソンでは、弁当など約400品の発注をセミオートに切り換えました。
従来オーナーや店長が売れ行きに応じ、商品ごとに発注していた時間を短縮することに成功。
また、操作が分かり易く、特別な分析や経験に依る判断を要さなくなったため、
アルバイトに業務を任せることにも成功したといいます。
ユニクロでは、公式アプリ上でAIを活用したチャット自動応答システム(チャットボット)
「UNIQLO IQ」を今年導入しました。
ユーザーからの音声による問い合わせ内容に応じて、AIが回答を自動で返す仕組みで、
店舗の在庫状況の確認、オンラインストアでの購入、
よくあるお問い合わせの確認やカスタマーセンターへの相談といった、買い物の一連の流れをサポート。
また、「旅行」「オフィス」「女子会」「お花見」「デート」といったシーン別のコーディネート提案や、
「着やせする」「二の腕をカバー」「紫外線対策」「透けない」「雨」などに対応する商品検索ができるほか、
48時間以内の売上げランキングや、星占いによるラッキーカラー商品の提案、
雑誌掲載アイテムの提案なども備えており、新しいショッピング体験のカタチを提唱しています。
こういった取り組みは、カスタマーセンターの業務削減や24時間即時対応、
販売機会ロスの削減などの業務改善にもつながるため、ユニクロはオンラインチャネルでの販売拡充に注力しています。
顧客の問い合わせにAIがネット上で自動応答する「チャットボット」の活用は、
人手不足に対抗し店舗とネットを融合させる動きに合わせて活用が広がっており、
以前より導入費用が安価に抑えられたサービスも登場してきました。
ティファナ・ドットコムがサービスを提供するAI接客システム「AIさくらさん」。
多言語対応可能な音声会話による接客、コールセンター業務の代替に加え、顧客行動追跡、ビッグデータ解析、
決済連携機能など、接客業の業務効率化に特化した近年導入が進んでいるAIソリューションサービスです。
大手ショッピングモール「イオンモール」は、地方立地の9店舗に「さくらさん」を導入。
対話型案内システムとして、デジタルサイネージを使用した施設案内情報の発信を行っています。
利用客の問いかけに応じて、おすすめやキャンペーンなども通知し、
自動発話によって能動的な接客を行うことで利便性、サービス向上に活用されています。
寝具メーカーの西川では、Webサイト上でお客様からの様々な問い合わせに対して、
24時間365日リアルタイムで回答するコンシェルジュサービスとして導入。
それまでお客様相談室宛に届いていた電話やメールの対応を軽減するとともに、
土日祝日も対応が可能となるため、顧客満足度向上にも繋がったといいます。
また、問い合わせの内容に関する様々なデータを蓄積することで、
どういう属性の顧客がどんな問い合わせをしているのか、目的別に類型化・ライブラリ化して学習することで、
精度の向上とサービス改善に役立てています。
同様に、すかいらーくグループでもWebサイトの利便性向上・顧客満足度向上を目的としてコンシェルジュサービスを導入。
また、スタッフがコミュニケーションをとるタブレット端末には、
社内ナレッジ共有や従業員スキルの向上に役立てられている「会社の生き字引機能」を搭載。
音声によるマニュアル再生や業務の引継ぎ業務パッケージ化を行い、スムーズな業務遂行を可能にしています。
少子高齢化による人材不足のあおりを、他の業界より強く受ける小売業界。
顧客に寄り添ったサービスが肝心要のため、
ロボットやAIですべての業務を代替できるような画一的なソリューションは、未だ登場していないのが現状です。
ただ、今後間違いなく伸長する分野であることは明白で、いずれAIでの接客が当たり前の時代がやってくるでしょう。
いざその時代がやってきたときに、同業他社に出遅れたりアレルギーを起こしたりしないように、
今の段階で一部業務を代替するなどしてある程度親しんでおく必要があるのではないでしょうか。
AIの前段階のソリューションとして存在するのが、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。
RPAは、定型業務を自動で処理するロボット機能であり、
AIよりも多くの企業の経理・人事・総務といったバックグラウンド業務に活用されています。
導入もAIソリューションよりも低予算・短期で行うことが可能なため、
AI導入の前段階として非常に有用なツールであるといえます。
利用者と直接向き合うAIと、バックグラウンドで提携業務をドライブするRPAによる業務効率化の恩恵は、
利用者にとっても新たなサービス、快適性の向上といった点で顕れることが期待できます。