2018.11.08
近年、労働人口の減少に伴い、急速に人手不足が進行しているのが接客業です。
実際、東京都における有効求人倍率(2017年11月時点)を職業別に見ると、
「サービス(接客・給仕)」は8.98倍と群を抜いて高く、全職業の1.8倍を大幅に上回っている現状があります。
また、最低賃金の上昇に伴いオペレーションコストが急増。
そのため、
少ない人数でシフトを回す⇒一人あたりの業務負担増⇒労働環境の悪化
⇒雇用の安定化につながらない⇒採用活動が思うように進まない
といった負の連鎖を引き起こしています。
こうした背景から、政府の推し進める「働き方改革」も、
接客業の最前線に立つ現場スタッフにとっては、他人事のように感じてしまうことも多いのではないでしょうか。
今回は、接客業の業務効率化や労働環境の改善に寄与するべく開発された「接客業向けAI技術」を
利活用した事例を基に、今後の接客業動向を探っていきたいと思います。
こと接客業において、人が人に対して行うサービスは多岐に渡り、
AI技術で賄うにはまだ十分技術革新が進んでいるとは言い難いです。
……などなど、現状超えるべき課題は多々あります。
もちろん上記すべてをAIで代替してしまうのは、
人同士のコミュニケーションを奪ってしまうことにほかならず、接客業の本来の良さが失われてしまいます。
AIの求められるのは、「人が行わなくても特段不都合がなく業務負荷が重い業務」を代替し、
その分人が新たなサービスを創出し、より顧客一人ひとりに寄り添ったサービスにシフトできるようにする
といった柔軟性の高い機能なのではないでしょうか。
ここからは実際に接客業の最前線に取り入れられているAI技術について、個別の事例を交えてご紹介します。
今回は、特に宿泊業にスポットを当てていきたいと思います。
日本屈指の温泉地・箱根の人気旅館でAI活用が始まっています。
AIを活用するのは自社ホームページ上のFAQ(よくある質問)、つまり顧客対応の部分です。
ここに利用者からの質問や、回答の検索を最適化するAI機能と、
サイト訪問者がFAQで疑問を解決できるように導くWebセルフサービス機能などを含むクラウドサービスを導入しました。
箱根湯本の「ホテルおかだ」では、FAQの表示を工夫し、SEO効果で自社サイトへの集客を増やすことと、
利用者が自己解決をすることで入電回数を減らすことを目的にAIを導入し、
運用から5か月で予約件数を10~15%増加させることに成功。
集客と効率化を同時に達成することができたといいます。
工夫点として、FAQを自動的に表示したことが挙げられています。
同一ページで日本語版であれば30秒、英語版であれば15秒滞留した場合に、
そのページに関連する質問項目を先回りして表示。
また、そもそも質問事項が浮かばないであろう新規顧客については、従来の宿泊客からのアンケートを元に、
知っておきたいであろう情報を随時プッシュする仕掛けを施しました。
同ホテルでは、サイト閲覧の内4割が電話予約の対応時間外であることが分かっていたため、
HP予約への誘導は、非常に有効的な施策であったといえます。
同じく、箱根・塔ノ沢の老舗温泉旅館「一の湯」では、AI対応をインバウンドの取込みに繋げています。
FAQで検索されるキーワードとその頻度を調べたところ、
訪日外国人が温泉に入る際に気にするタトゥーについての質問が予想以上に多いことが判明。
悩みの強さを把握したことで、今までなんとなくネガティブに捉えていたタトゥーに対する受け答えを、
プラスに受け止めるようになりました。
同館では、露天風呂付客室を多く設けているため、
このメリットを自信を持って勧めることで、訪日外国人の効果的な取込みに成功しています。
また同館では、アメニティの選別や新商品の開発のきっかけとしても有効活用。
例えば「コーヒーは飲めますか?」という検索の多さを踏まえ、
銀座「TORIBA COFFEE」との共同でオリジナルの「一の湯珈琲」を開発したり、
「パーキング」の検索が多い場合は、駐車場設備の増強や提携駐車場の拡大をしたりして、
常にニーズの掘り起こしを行っています。
変なホテルは、エイチ・アイ・エスグループが展開するホテルブランドで、
ハウステンボス内にオープンした1号店を皮切りに、都内・都市部を中心に9店舗展開されています。
変なホテルは、「変わり続けることを約束するホテル」をコンセプトに館内全域にわたってロボットを配備。
徹底した業務効率性の高さと、最新テクノロジーの粋を集めたホテルというエンターテイメント性を両立した
ホテルとして、人気を博しています。
変なホテルのフロントで出迎えるAIは、本来人が行うチェックイン機能を担っています。
基本的な挨拶はもちろん、チェックイン端末の操作の誘導、荷物が多い場合はロボットクロークへの案内など、
肌理細やかなサービスを提供しています。
AIを手掛ける各社は、近年人手不足が進行するホテル業界向けのAIソリューションをこぞって展開しています。
株式会社空が提供する「ホテル番付」は、従来従業員が主要業務の傍ら行っていた変動宿泊料金の決定に、
特化したマーケティング機能を有しています。
宿泊料金は平日/休日や行楽シーズン、イベント、周辺ホテルとの料金比較などにより決定しますが、
「ホテル番付」はそういった情報を全国2万軒以上のホテル情報を自動精査することによって抽出。
最も利益の見込める最適価格の設定に寄与し、
マーケティング担当者がホテルの企画、戦略を練る作業に集中できるようなサービスを展開しています。
ビースポーク社が提供する「Bebot」は、
人工知能を用いて訪日外国人向けに旅行に関するアドバイスをリアルタイムに答えるチャットツールです。
iPhoneの「Siri」やAndroid端末での「OK Google」の旅行版のようなサービスで、
かねてから収集していた日本の穴場スポットの情報をユーザーの声としてテキストデータ化し、解析。
解析結果から人工知能が自動的に外国人の要望に応える仕組みです。
旅行者は、LINEやWeChat、Facebook Messengerといった会話ツールを使うことで、
チェックインからチェックアウト時まで相談が可能になり、
近くの観光スポット、話題店の予約、文化体験予約、道案内まで対応し、地元の人しか知らないような役立つ情報
を24時間簡単に手に入れることができます。
宿泊施設にとっては、常時回答が可能になったことで、宿泊者の満足度を高められるだけでなく、
外国語対応に不安がある場合でも、人工知能のサポートしてくれるメリットがあります。
これにより、近い将来各国言語に対応するスタッフを常駐させることなく、
訪日外国人旅行者へのローカル案内を行うことが可能になるというわけです。
人手不足が進み、ホスピタリティサービスが重視され、なかなか業務改善につながらない宿泊業界。
今後更なるサービス・ソリューションの開発が期待されます。
利用者と直接向き合うAIと、バックグラウンドで提携業務をドライブするRPAによる業務効率化の恩恵は、
利用者にとっても新たなサービス、快適性の向上といった点で顕れるでしょう。