2018.07.12
本コラムでは、前回コラムの内容から引き続き、自治体におけるRPA導入のポイント、最大限の効果を狙うための要諦について述べていきたいと思います。
前回のコラムを参照したい方は以下をご覧ください。
前回のコラムでは、自治体におけるどのような業務がRPAの対象となりうるのか、「窓口業務」と「内部管理業務」に分けて列挙し、
また、RPA導入におけるポイントの一つとして「RPAを入れる前に業務フローを変えよ」ということを述べさせていただきました。
一見、RPA導入となると、「現行の業務フローをそのままにロボットに移管できる」という妄想に囚われがちになりますが、
ロボットと人間、それは勿論、特性が違います。
その人間とは異なるRPAロボットなるものの性向、得意分野に合わせて人間側が業務フローを再設計する工夫が求められます。
もちろん、業務フローを変えずともRPAの導入は原理上可能ではありますが、
その場合、効率化の果実、つまり人間側で生まれるはずの余剰時間が限定的になってしまい、
人間にとってもロボットにとってもハッピーな結果とはなるとは言えません。
現行の業務フローを変えることは確かにリスクです。
ただ、その苦しみを乗り越えないと、RPAの果実は萎んでしまう、
それは厳然たる事実であり、自治体側においてもその覚悟をもってRPA導入を図るべきだと考えます。
では、今回のコラムでは、それ以外の点で、特に自治体にRPA導入する際に気を付けるべき点を述べていきます。
自治体業務では、市民、法人などの様々な所から、多種多様な申請を受けることになります。
これらの「申請書」について、現状は手書きで書かれることが多く、職員の方々がその申請書を読み取って、システム等に登録していきます。
その業務をRPAロボットにさせようとする場合、OCRの技術、つまり画像として文字を電子上のテキスト情報に変換する技術が必要になってきます。
実際に、金融業界が先鞭をつけた、日本におけるこのRPA化のトレンドにおいても、
まずは消費者からの契約書関連の入力業務がOCRの導入とセットで取り上げられることが多かったものです。
ただ、ここで注意が必要です。現行の技術ではOCRの精度は100%ではなく、必ず職員による目視チェック業務が発生します。
確かに、このOCRの技術は日進月歩であり、AI技術と合わさることによって手書き文字の認識率も随分と向上しました。
しかし、それでも認識率は100%では無いために、必然、人間による目視確認チェック工程が入ります。
また、OCRと申請書等帳票の相性にもよるのですが、精度を上げるためにチューニング作業であったり、
学習データの蓄積といった作業が必要になるケースもあります。
その場合、OCR精度を上げるためにかかる労力が甚大になるため、
例えば扱う帳票種類が膨大な数となった場合、リードタイム非常に長くなってしまいます。
従って、これは何もRPAに限ったことではないですが、省力化・自動化の取り組みをするのであれば、
入力時点で電子化させるのが何よりも一番効率的になりますし、手っ取り早いです。
具体的には、タブレット等の端末を用意してそちらに市民の方に入力してもらう施策が考えられます。
中には押印が必要なものもあると思いますが、
それはテキスト入力後印刷してその上に押すことで済ましたり、タブレット上での署名で代替するなど解消方法はいくらでも考えられます。
もちろん、中にはタブレット端末の操作に不慣れなご高齢の方もいるでしょう。
そのような場合は、特別対応として、職人が代替して入力してあげればよいのです。
ただ、この特別対応が蔓延すると、職員の負荷増大になり本末転倒になりますので、基本的には自力で入力するように促すことが求められます。
この申請・帳票類のペーパーレス化は、民間企業でもトレンドとなっています。
分かりやすい例で言えば、来訪者の受付記入業務のペーパーレス化です。
近年、ACALLに代表されるような商談や入管管理の電子化ソリューションが普及していますが、
そこでは今まで来訪者が紙に社名、名前、商談対象者などの情報を記入して受付に提出していたのが、
タブレット上で入力できるようになりました。
参考: ACALL 受付アプリの画面(出所: https://www.acall.jp/features/reception/)
この機能により、来訪者はタブレット上から面会対象者を探して選択し、かつ電子上で自社や自身の情報入力を済ますことになります。
この来訪者受付のペーパーレス化によって、(今まで受付の社員が行っていた)来訪者情報の入力作業が全て自動で電子化されることになり、
人間による紙からの手打ち業務の削減に繋がっています。
同様の受付業務ペーパーレス化は防衛省等の官公庁でも取り入れられています。
ここで取り上げた事例はあくまで来訪者の受付業務の話ですが、
同様の思想は自治体の申請書・帳票受付業務にも敷衍できるものであると考えられます。
タブレットやアプリの初期費用がかかることになりますが、それにより、OCRの導入コストが抑えられます。
また、最初の市民の方々からの入力時点で電子情報となっているので、RPAでのシステム登録も正確にでき、
職員によるチェック工数の削減に繋がり、より大きな効率化効果が望めることになります。
実際に、現在様々な自治体でこの窓口業務におけるペーパーレス化・タブレット活用が取り組まれています。
会津若松市等、まず手始めとして行っている自治体で多いのが、
住民票の写し、印鑑登録証明書、戸籍事項証明書におけるタブレット申請の取り組みです。
マイナンバーカードや住基カードを用いて申請ができます。
参考: 会津若松市におけるタッチパネル受付サービス
(https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2014022700037/)
特にマイナンバーカードは、2017年3月時点で、交付枚数は1,000万枚を超え、国としては更なる利活用を進めています。
その一つの方策として、自治体窓口における証明書交付等の入力負荷低減として、マイナンバーカードの活用に着目しています。
この会津若松市の事例も、まさにそのトレンドに沿った施策と言えます。
ただ、住民票写しなどの申請省力化は、特に新規性のあるものではなく、
一部の自治体では既に専用機械を導入、印鑑登録カード等を活用して同様の仕組みは実現していました。
そこで近年では更に、出生・転入・転出・転居・結婚・離婚・死亡といった際の届出・申請にまで踏み込んだ取り組みも出てきました。
例えば、DNPが2017年5月にプレスリリースした情報では、
出生・転入・転出・転居・結婚・離婚・死亡といったライフイベントにおける届出・申請に対応するプロトタイプシステムの開発を発表しています。
マイナンバーカードをから、氏名・住所・性別・生年月日の基本4情報を取り出し、
届出・申請書に入力、その内容を自治体の基幹システムと連携させることもできることを目指しています。
参考: DNPによる自治体への申請手続き支援システム
(http://www.dnp.co.jp/news/10135590_2482.html?from=rss)
このような取り組みがもっと進展すれば、多種多様に存在する自治体の紙による届出・申請は、
ペーパーレス、つまり電子入力に切り替わっていくことが予想されます。
もともと自治体の届出・申請書は紙による手続きが残っている分野ではあり、今までの慣習を変えるのは大変骨の折れることではあります。
しかし、よくよく考えれば紙への書き込み作業は、市民にとって負荷でありますし、
そして何よりも窓口職員にとっても多くの市民に接しサービス提供する機会を棄損することにもつながります。
そこで、RPA導入を検討されている自治体におきましては、
この機会に「紙からの脱却」も併せて検討することでRPA効果の最大化を狙うことをお勧めします。
次回コラムでは、自治体におけるRPA導入について、最後の重要なポイントを述べていきたいと思います。乞うご期待ください。