2018.05.23
今回のコラムでは、前回のコラムの内容から更に一歩踏み込んで、経理財務、人事総務、営業事務、購買等のバックオフィス業務におけるRPA実導入事例を類型化してご紹介します。前回コラムの内容については下記リンクをご参照ください。
リンク:RPA対象業務の実例(1) ~ 経理財務、人事総務、営業事務、購買等における各種書類媒体について
まず前回コラムのおさらいですが、RPA導入を考えるうえでの基本単位となる「入力」「加工」「出力」の流れですが、そこで扱われる媒体は主に以下になります。
これらの媒体を組み合わせて、RPAロボットによる「入力」と「出力」を定義してくわけですが、そのパターン数は膨大となります。ただ、実際にRPA導入プロジェクトの現場では、全てのパターンについて対象となるわけではなく、よく出てくる組合せというものが存在します。今回のコラムでは、それらRPA対象業務として主要なものを実例踏まえて述べていきます。
1.システムtoシステム(システム間連携)
経理や人事総務は日々膨大な数の申請を社内から受けています。これら申請情報を会計システムやネットバンキングに入力する作業に未だ手入力で行っているケースが存在します。特に、あるシステムから別のシステムへ情報を加工して入力する作業、いわゆる「システムtoシステム」の領域はRPAにとって一大分野です。これは各システムのベンダーが異なることもあり、そのシステム内での自動化・効率化は進められているものの自社とは関係のないシステムについての連携についてはどうしても後手に回ってしまっていることが理由として挙げられます。現場担当者はこのシステム間の仕様の齟齬を埋めるために手作業で情報加工をすることで、システム間の連携を成り立たせているわけです。このような「隙間業務」が実は経理や人事総務といった間接部門の人的リソースを圧迫しているケースが、今までのRPA導入前の業務分析で明らかになっています。それを埋め合わせるためにシステムの追加開発をするとなると多大な投資を覚悟する必要がありますが、RPAは費用対効果および導入スピードに優れており、正にこのようなケースで最も相性の良いソリューションと言えるでしょう。
それでは、具体的にどのような業務が実際にRPA化プロジェクトの対象となっているか見てみましょう。
稟議/決済申請→支払/仕訳入力業務: 事業部側の社員が挙げてくる見積書や請求書などの稟議/決済情報をネットバンキングに支払登録をしたり、会計システムに仕訳入力する業務です。稟議/決済申請の仕方は会社によって大きく異なります。比較的規模の大きい会社はしっかりとしたワークフローシステムが完備されており、そのワークフロー上の電子情報をRPAが取得するところから始まります。中小企業だと、まだこの申請フローがメールにExcel添付であったり、もしくは未だ紙で行っているところも存在します。その場合、まずはその申請フローを電子化するためにワークフローシステムの導入を検討する必要がありますが、それができれば今まで手入力であった経理業務の大幅な自動化が可能となります。
入出金情報→会計システム仕訳入力業務: 銀行口座からの入出金情報は経理財務部門が取り扱うべき主要な情報の一つです。月末後の月初数営業日内でまずチェックを行い、その入出金情報が、予め事業部等から申請された情報と合っているのかチェックを行い、問題がなければ勘定奉行などの会計システムに対して、科目情報を付記して入力/消込をしていきます。こちらについては、口座情報に出てくる振込元/先の名称が何を指しているか判別するためのマスタ情報を構築する必要があります。通常はExcelでこのマスタ情報を作っておき、RPAロボットはその情報を参照して、「この振込先/元の金額情報は●●の科目に相当する」といった判断をして会計システムに入力していきます。ただ、この業務については全ての入出金情報を事前にマスタ管理できない場合もあるので、ロボットで対応できなかった入出金情報については別途リストアップを行い、人間側である経理担当者に知らせて判断を仰ぐフローが必要になります。
社内システムへの申請/登録業務: これは経理財務や人事総務といった管理部門というよりか、事業部側の入力業務を効率化する使い方になります。多くの会社で事業部側は、ワークフローシステムを使って経理・人事総務関連の申請をしたり、セールスフォース等のCRMシステムに顧客情報の入力を行っていますが、システムの仕様によってはそのUI上の問題により、非常に入力に手間がかかっているケースが散見されます。現在の多くの業務システム上の登録作業はHTML形式の画面、つまり記入欄やボタンなどをクリック動作で作動させて入力させるUIとなっています。これは1件だけであれば問題ないのですが、それが500件、1000件となると、1件1件、セルに情報入力しボタンを選択し登録ボタンを押す、、といった作業は非常に苦痛を伴います。多くのシステムではそのような大量申請/登録用にCSVによるアップロード機能が付いていますが、一部のシステムではその対応ができていない事があります。そのような場合、例えばExcelに必要情報を現場で入力してしまい、その情報を基にRPAのほうでシステム入力をさせる打ち手が考えられます。
3.社員からの情報の集計/チェック業務
次にExcelやメールといったツールで挙げられてくる各種情報を取りまとめる業務について述べます。これはワークフローシステムを適用している業務であれば、システム内の機能でこのような集計/確認は行えるかと思いますが、特に中小企業の場合、このような細々とした申請全てがシステム化されている訳ではなく、定型フォーマットによるExcel帳票やメールでのやり取りが前提になっているケースも頻繁に見受けられます。
勤務表/勤怠申請の取りまとめ: これは人事総務の管轄になりますが、残業代の計算や深夜残業の抑制を講じる上で、各社員の勤務表のモニタリングは欠かせません。これを打刻時間から自動計算する勤怠管理システムを導入している場合は、集計業務は自動でしてくれますが、中小企業などExcel等で勤務表管理している場合、その集計業務が発生します。また、中堅以上の企業であっても、社員が基本的に裁量労働制であった場合、欠勤/遅刻/早退情報についてワークフローシステムを導入していないケースもあります。そのようなシステムでカバーしていない申請情報の取りまとめ、集計、モニタリングといった業務はRPA化の候補となります。
経費申請の取りまとめ: 経費申請は、各社のワークフローシステムやConcurのような専門アプリケーションで包括的に対応できる分野ではありますが、まだExcelフォーマットに記入し、原本添付の上、経理部に提出、といったフローを踏襲している会社が特に中小企業では多く存在します。そのようにシステムを利用していない企業にとって、月々の経費申請の金額推移の確認や、ルールを満たしているかのチェックは人力で行わざるを得ません。このあたりの作業をRPAにより自動化することができます。
小口現金出納帳の取りまとめ: 飲食店や小売店等の多店舗展開をしている業種では、レジの金銭管理とは別に、店舗内金庫等で管理している小口現金の管理も欠かせません。レジ金銭管理については、多店舗展開している業種ではシステム導入が比較的進んでいますが、それに比べて、小口現金についてはExcelによる出納帳管理を依然として行っているケースが多いのが実情では無いでしょうか。また小売店/飲食店のようなB2C事業でなくB2B事業であっても、全国主要都市に事務所展開をしているケースが多く、その場合の小口現金の管理も同様の傾向が見受けられます。そのような「Excel等の電子帳票で管理された情報を取りまとめる/異常値を検出する業務」というのはRPAの得意分野となります。
法人クレジットカード利用情報の取りまとめ: 営業等に法人クレジットカードを渡している企業の場合、経費申請業務の負荷は軽減しますが、その代わり、毎月法人カードの利用状況の集計作業が発生します。全ての項目について対応はできませんが、主要な取引先が予め限定されているのであれば、予めその情報をロボットに覚えさせておくことで会計システムに入力する科目情報を付記した集計も可能となります。
スケジュール調整(空き時間抽出): 社内にある定型情報には各社員のスケジュールも含まれます。サイボウズやGoogle、Outlookといったアプリケーションにあるカレンダー機能を活用する作業になります。業務負荷の高い領域で言うと、人事の採用面接の日程・会議室調整業務や、秘書による取締等の日程管理業務が挙げられます。但し、このスケジュール調整業務にRPAを適用させる場合、「全部をRPAに任せることはできない」という割り切った考えを持つことが重要になります。例えば、採用面接官に対して空き時間を選んで面接日程と会議室を調整するといっても、各面接官のスケジュール入力の仕方は様々です。出張や客先訪問がある場合、その移動時間まで含めてスケジュール入力している面接官もいれば、そうでない方もいます。またカレンダー入力されていない暗黙のルールもあったりします。このような非定型で複雑な背景情報の考慮は正に人間が行うべき領域です。RPAでこのような業務領域を扱う場合は、単純に&機械的に空き時間のみをリストアップして担当者に知らせるといった工程に限定すべきです。ただ、その全体の調整業務からすれば一部の工程であっても現場担当者の負担を軽減できるのであればRPA導入候補となりえると考えます。
今回のコラムでは、ここまでとします。後編となる次回では更に別のRPA事例紹介をしていきますので乞うご期待ください。
RPA対象業務の実例(3) ~ 経理財務、人事総務、営業事務、購買等における実導入事例のパターン(後編)