2018.05.09
今回のコラムでは、初期ヒアリングが終わり、対象部署の業務の全体像を掴んだ後に行われる2回目業務ヒアリングの要諦についてお伝えします。よく、「ヒアリングは1回で済ますことができないのか」と聞かれますが、今までの経験上で言うと、特にRPA導入プロジェクトにおいては最低2回のヒアリングが必要なるケースが多いです。そもそも1回目のヒアリングの目的は「業務の全体像を把握すること」と「RPA化対象候補となりうる大枠の業務区分の抽出」にあります。2回目のヒアリングでは、「その絞った業務区分に対しより細かい業務フローの把握」と「ロボット化のロジックの妥当性検証」を行うことが目的となります。1回目のヒアリングでそこまで詳細な情報を得ようとすると、そもそも時間が足りませんし、また、RPA対象となりえない業務に対して深堀して聞くことにもなりかねず、逆に非効率な結果となってしまいます。更に、1回目のヒアリングでは、経理財務や人事総務、営業事務などの業務を広範囲に見ている方、具体的に言うと部長や課長レベルの方が対象となるのに対し、2回目はより絞った業務について事細かな作業手順を伺うことになるので、現場で実際に作業をしている社員様がヒアリング対象となります。
RPA導入の進め方~事例から見るノウハウ・必要ステップ(1): 最初の業務分析・棚卸
RPA導入前の初回ヒアリングのノウハウについて知りたい方はこちら↓
RPA導入の進め方~事例から見るノウハウ・必要ステップ(1)
2回目の業務ヒアリングをする前に準備をしておくことがあります。それは、初回ヒアリングから、RPA対象領域として選出した「業務項目のリスト」および「具体的にどのあたりがロボット化できそうかの初期仮説」をコンサルタント側で準備して、対象部署の方に共有しておきます。さらにヒアリング当日はビデオカメラを使っての動画撮影も行いますので、PCおよびモニターの準備も依頼しておきます。
2回目ヒアリングの事前準備事項
・RPA候補業務のリスト
・RPA化対象領域の仮説
・当日動画撮影の為のセッティング依頼
動画撮影については、躊躇される方も多いですが、RPAに関しては、PC上で行っている操作が対象となります。その後の、実開発フェーズへのスムーズな移行を行う上でも、PC画面上で実際にどのような操作をしているのか、使用しているシステム/帳票はどのようなフォーマットのものなのかを把握しておくことは重要です。実際に、その場で画面操作を拝見しても細かい点までは抑えきれないため、予め録画してあとで見直しができるようにしておくことが、結局は現場側への再度の確認の手間が除かれ、結果、負担の軽減につながります。
ここで、具体的な2回目業務ヒアリングの内容に入る前に、コンサルタントに求められるスキルをについて述べたいと思います。現状、RPAの導入をリードするコンサルタントは、RPA専門家というよりかは、BPRやBPOといった通常の業務改善、アウトソーシングのプロジェクト経験をもったコンサルタントの方が多いと思います。その方たちはもちろん、業務の棚卸、精査については十分な知見を持っており、1回目のヒアリングではそれほど差し障りなくプロジェクト進行ができると思います。但し、2回目ヒアリングとなるとロボット化、つまりRPAのプログラミング・アルゴリズムの知識が多分に求められます。これは、RPAというものは結局、世の中にあるITシソリューションと同様、最終的にはプログラミングされたシステムで問題を解決する施策になるからです。
2回目ヒアリングでは、業務の詳細を伺いながら、「RPA化するとこのようなアルゴリズムになり、したがって人間側は●●のような作業をしてサポートをする必要がある」といったようなことを提言していかなくてはいけません。そのためにはRPAのプログラミングの素養が求められます。幸い、RPAに関しては、世の中に多くの開発ツールが出回っており、比較的簡単に低コストでプログラミングスキルを学ぶことができます。弊社で特に取り組んでいるUiPATHでは、チュートリアルも豊富で、1~2か月程度で概要を掴むことは可能です。コンサルタントの方々にまずおすすめしたいのは、自分自身でRPAのプログラムを作ってみる事です。内容自体はExcelのマクロに近いので比較的早期に習熟することが可能かと思います。RPAでできることはシステムやExcel帳票の画面操作だけではなく、メールのやり取りから、Webサイトからの情報取得まで多岐にわたります。また、ロボットの起動のさせ方も、ローカルロボットからの手動でのキックもありますし、Windowsでのタスクスケジューラでの起動もあります。また指定フォルダやメーラーに対する巡回型ロボットを作る場合も制約条件があります。これらのことを踏まえた上で提言を行っていくには、何よりもRPAのプログラミング知識が求められるのです。この知識が無いと、2回目業務ヒアリングを行い、ロボット化対象領域をより細かに抽出できたとしても、実際に開発段階になって蓋を開けてみると、RPA化が不可能であったり、仮にRPA化できたとしても大きな業務変容を現場担当者に強いるために実現性の薄い結果となることが危惧されます。
それでは、いよいよ具体的な2回目業務ヒアリングの内容に移ります。ヒアリングでは先述したとおり、現場担当者様に具体的にPC上での操作をモニターに映して頂き、業務の内容を検証します。業務詳細を追っていきながら、同時にロボット化のロジックを頭に思い浮かべなら質疑応答を繰り返していきます。具体的なヒアリング事項は以下になります。
2回目ヒアリング時の確認事項
・使用するシステム/ツールのフォーマット
・具体的な作業内容(情報の取得先、情報の転記・加工、アウトプットの形式)
・RPA化対象のサブ業務区分(これは初回ヒアリングで聞いた業務の更に細かい区分単位で行います)
・サブ業務区分単位での業務量、RPA化した際の削減%
「使用するシステム/ツールのフォーマット」
RPA導入を検討する上で、ロボットが作業する対象となるシステムやExcel等帳票のフォーマットの確認は欠かせません。実際にロボットで作業を代替させる場合、明確なルールが求められます。例えば、経理の業務で請求書からの支払対応や勘定システムへの計上業務があります。ワークフローシステムでの稟議申請であったり請求書付きの決済申請が行われますが、その情報をネットバンキングでの支払登録をさせるには、支払先の口座番号等のマスタ情報を管理しておく必要があります。ワークフロー上での申請情報とその支払先マスタ情報をロボット側で紐づけさせるには企業単位でID管理をすることが求められます。今までは人間側での作業では「●●株式会社」であろうが「●●(株)」であろうが、凡そ見当がつくのでその紐づけ業務はファジーな感覚で作業できていたかもしれませんが、ロボットにさせるとなるとそのような曖昧なルールでは動きません。明確に紐づけをできるようにするには別途IDの配布が必要になるのです。そのような視点を踏まえながら、現在使っているシステム/ツールのフォーマット確認およびロボット化する際での変更点についてコンサルタントは言及していきます。
「具体的な作業内容(情報の取得先、情報の転記・加工、アウトプットの形式)」
次に、より詳細な業務フローについて確認していく工程に入りますが、ポイントとなるのは「入力(インプット)」→「加工」→「出力(アウトプット)」の構造を頭の中に持ちながら、業務を分解していくことにあります。なぜなら、この3元素はRPAロボットを作っていく上での基本単位となるからです。基本的に、インプット元となる明確な情報源が無いような作業はロボットには向きません。情報減がゼロ、もしくは有象無象の非定型情報から何かを生み出さなくてはいけないようなクリエイティビティの高い業務はRPAというよりかAIの領域です。既存のRPAではまだAIとの連携は本格化しておりませんので、現行のプロジェクトではそのような業務がRPA対象となることは先ず無いでしょう。また、入力情報だけで、アウトプットの無い様な作業はそもそも業務として存在しえません(価値を生まない)。皆様が日々行っている業務の多くも基本的には「入力」と「加工」「出力」のフレームワークに収まるかと思います。
業務ヒアリングをしていく上で、この3要素を頭に持っていると、抜け漏れを防ぐことができます。実際、現場担当者様からのヒアリングでは、自部署内だと自明の理であるために入力元となる情報源について差ほど言及せずに、説明を進めてしまわれるケースもよく散見されます。そのような際は、今一度振り返って聞きなおし、インプット元となる情報がどこから、誰からくるのか、その情報のフォーマット(申請ワークフロー、社員からの非定型メール、電話など)はどのような形式で手に入るのかを聞いていきます。
次に、対象業務を「サブ業務区分」(これは初回ヒアリングで聞いた業務の更に細かい区分単位)に分解していきます。例えば、先述した経理財務の「請求書からの支払対応」業務については、以下のように細分化できます。
サブ業務区分 |
担当 |
使用システム/ツール |
発生頻度 |
業務時間 |
RPAによる削減% |
(請求書到着前の見積書段階での)稟議申請 |
事業部 |
WF |
– |
|
|
(請求書到着後の)決済申請 |
事業部 |
WF |
– |
|
|
申請内容と実請求書との照合 |
経理 |
WF |
月初 |
|
|
未提出請求書の洗い出し |
経理 |
エクセル |
月初 |
|
|
差戻し/追加申請の依頼 |
経理 |
WF |
月初 |
|
|
申請の修正/追加申請 |
事業部 |
WF |
– |
|
|
支払い用の専用帳票への転記 /支払先単位ごとの金額小計の算出 |
経理 |
エクセル |
月1回 |
|
|
ネットバンキングへの仮登録/承認 |
経理 |
ネットバンキング |
月1回 |
|
|
このように細分化された業務区分において、業務量を聞いていきます。またその際に「●●の業務のところは▲▲のようなやり方でロボットによる自動化ができるが、その場合、業務量は何%減るか」といった質問も併せてしていきます。そうすることで、業務時間とRPAによる削減%の情報を埋めて置き、これらがあると計算して最終的に削減時間見積もりを出せるようになります。
ただし、実際に多くの業務ヒアリングをしてきた経験から言うと、なかなかこのような細かいサブ業務区分レベルで業務量や削減%を詳述できる現場担当者様はなかなかおりません。業務時間の方は、As-Isの話なので、何とか答えられるとしても、RPAによる削減%はTo-Beの話になるので、この細かいレベルでの回答は難しいケースが殆どです。その場合は、無理に厳密に細かい区分に固執せずに、このサブ業務区分単位からもう少し広げた業務範囲で「凡そ業務時間はどの程度か」、「この業務のうちの●●といった工程がRPA化された場合凡そ何%くらい業務量が減るか」といったことを聞くのが有効です。厳密性は確かに前者に比べて落ちてしまうのですが、何よりも現場の負担は少なくて済み、スタックせずに速やかに次の開発フェーズへの移行に進むことができます。
経理財務や人事総務、営業事務といった現場担当者様との2回目ヒアリングの結果、次の開発フェーズにおける要件定義をしていく上での基礎資料を作成します。上記のサブ業務区分とのこころで示したような表形式のフォーマットで成果物とするケースもありますが、今回のコラムではより踏み込んで開発フェーズに役立てられるようなテンプレートをご紹介します。
このテンプレートの特徴としては、As-Isの業務内容と、RPA導入後のTo-Beの業務変化点を明確に分けて叙述できることが挙げられます。特に、To-Beについてはできるだけ細かいイメージを盛り込んで現場担当者様との確認を行うべきです。開発フェーズになると具体的に「どの工程をどのようなロジックでロボットに作業させるか」の話になってきます。そのような話を詰める際に、上記のような基礎資料があると大変生産的に進めることができます。また上記のテンプレートは整理のしやすさから表形式にしておりますが、現場担当者様と最終的なTo-Beのイメージ摺合せをするときには、もう少しビジュアル性のあるものが良いかもしれません。こちらテンプレートで記述された内容をもとに、フローチャートをコンサルタントが作り、そちらをもって最終的な確認を取ったりすることもしています。